京論壇2018公式ブログ

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【コラム】日中の葛藤を経て

こんにちは!東京大学経済学部3年の孔 德湧です。京論壇では文化多様性の分科会に所属しています。

京論壇以外には、模擬国連という活動をしています。

 

僕は両親が中国人で、いわゆる華人2世と呼ばれる存在です。中国に出自がある一方で、僕自身は日本生まれ日本育ちであるため、中国は僕自身にとっては近いようで遠い存在でした。幼稚園の頃から小学校三年生にかけて中国の小学校に通っていた経験があるものの、日本に帰国して時間が経つに連れて、その頃の記憶はどんどん薄まり、そして僕の中にあった中国人としての意識もそれに連れてだんだんと日本人のものに変わりました。現在は日本人として日本社会に生きてるものの、自分の中にある中国文化的な部分は完全に消えたわけではなく、そしていつか「中国」に向き合わなくてはいけないという思いがどこか自分の中にありました。それが、京論壇に参加した一番おおもとの動機です。

 

短い間とはいえ、3年弱中国の小学校に通っていた僕は帰国当初、強い中国人意識を持っていました。そのため、帰国してから、文化・教育・メディアの報道など多くの面で違和感を覚えました。例えば、中国には「空気を読む」なんて文化はないですし、人前であくびをしてはいけないなんて言われたことがありませんでした。学校の教育に関しては、中国ではかつての戦争での日本の侵略が強調されるのに対し、日本ではそれに関して教えられることはほとんどない。メディアの報道をみると、例えば国際政治の報道になると中国では欧米や日本を批判することが多いのに対して、日本だと逆です。また、中国に対して人々が悪い印象を抱くような言説が多数あることも驚きでした。このような違いに小さい頃の僕はとても苦しみました。信じていたもの、誇りを持っていたものがこっちではことごとく否定される。それに対して、両親はやはりどこか僕に中国人らしくいてほしいという思いがあったらしく、このような悩みを相談しても「日本はこういうところが間違っている、こういうところがよくない」というようなことしか言いませんでした。

最初のうち、僕自身もこれをそのまま受け入れていましたが、いつからかこのままでは日本社会に溶け込めないという意識が生まれるようになりました。その後、徐々に日本の学校に馴染み、日本人の友達もたくさんできるようになりました。そして、たしか中学生くらいの頃だと思いますが、これからは日本人として生きていこうと決意しました。それ以降、僕にとって中国はあくまで外部の存在となり、中国人もあくまで外国人となりました。また、テレビやネットにある中国人に対する偏見を含んだ言説にもうなずけるようになりました。

ただ、これで僕自身の葛藤は終わりませんでした。自分に馴染みのある存在である「中国」を外部の存在としてとらえ、ときには否定することは果たして正しいのかということを考えるようになりました。同時に、こういう風に中国に悪い印象をもつことは、日中間にある問題の解決に全く繋がらないということにも気付きました。「中国」にどのように向き合うか、これはその後の自分の人生において重要なテーマとなりました。

 

そして、紆余曲折を経て、自分の中にあるこのテーマを考える上で、「他者の視点に立つ」こと、そして「自分自身を客観視する」ことがとても大切だということに気がつきました。

まず、「他者の視点に立つ」ということについて。例えば、中国人はなぜ日本に対して悪い印象をもつのでしょうか。おそらく歴史的な問題、領土問題など、様々な要因があると思います。これらの要因を踏まえた上で、「もし自分が中国人だとしたら、日本に対してどのような印象をもつだろうか?」ということを考えたときに、彼らの感情にも頷けるものがきっとあるだろうと思います。例えば、小さい頃に家族や学校の先生から昔の日本の侵略の話を聞かされたとき、多かれ少なかれ日本人に対して悪い印象を持ってしまうと思います。ここまで考えると、一部の中国人が日本に悪い印象をもつことに対して、多少は頷けるようになると思います。これ自体は別に日中問題の解決に直接つながるとは思いませんが、相手の立場に立って考えたとき、少なくとも相手を一方的に「悪」と捉えることはなくなると思います。このように相手の立場に立ち、一方的に「悪」と決めつけることをやめたときに、対話の可能性が開かれると思います。

 

同時に、自分の中にある感情を客観視することも重要です。外国人や外国文化に対して、警戒したり、よくない感情を抱くこと自体は誰にしもあることだと思います。重要なのは、自分がなぜそのような感情を抱くのかを冷静に考え、相手を一方的に排除しようとしないことです。

再度、「日本人はなぜ中国人に悪い印象を抱きがちなのか」ということを考えてみましょう。反日デモのイメージや中国人のマナーの悪さによることが多いと思います。そこから、自分の中にある中国人の悪いイメージが必ずしもすべての中国人に当てはまるわけではなく、より良い中国人との付き合い方を見出せるはずです。中国人に限らず、今後私たちが外国人(もしくは外国に出自をもつ日本人)と接する機会はどんどん増えるだろうし、自分の中にある感情の客観視はそういった人たちとの付き合い方を考える上でとても重要なことだと思います。同時に、この二つのことは日中の問題や、外国人との付き合い方だけでなく、広く人間関係や組織運営などにも当てはまる事柄だと感じています。他者とぶつかったとき、なぜ相手がそのように感じるのか、そしてなぜ自分はそのように感じるのか、冷静になって考えると解決の糸口がみつかると思います。

 

現在、私は文化多様性の分科会に所属しています。そこのメンバーは様々な出自を持っており、多様性がある中で、日々充実した議論ができていると感じています。京論壇を通して、北京大学の学生と互いの中にあるネガティブな感情も含めてしっかりと向き合い、充実した議論ができることを楽しみにしております。そして、この活動が少しでも日中の対話に寄与できるよう努力してまいりたいと思います。